ビカクシダは、一つ飾るだけでインテリア上級者になれる魔法の観葉植物。苔玉から鹿のツノのような葉を伸ばすその姿は、異国情緒が漂います。
かつて日本では、“羽ばたくコウモリの羽のような葉をした蘭”、という見立てから「コウモリラン」と呼ばれましたが、欧米では昔から、鹿の角を表す「staghorn fern」や「elkhorn fern」と呼ばれているため、現在は日本でも鹿の角を意味するビカク(麋角)にかけて、ビカクシダという呼び方が主流となっています。
主な原産地は、東南アジアやオーストラリア、南米などの熱帯地域で、野生では木の幹に着生しています。園芸では、その状態を疑似化した「板付け」といわれる方法での栽培が人気ですが、園芸店で板付けされた商品を初めて見たお客様の多くが「あんな板に張り付いていて、いったいどうやって生きていけるの?」と疑問を抱きます。
一般的に、花や木を買うときは、既に土に植え付けられていますよね。ビカクシダは土の代わりに水苔に植え付けられた状態で販売されています(ただし、土に植え付けられた鉢植えの商品もあります)。
まるで高級な邸宅に飾られた鹿の角のオブジェのような、ほかの観葉植物にはないゴージャスな容姿と、高いインテリア性、そしてDIY要素もある独特な栽培方法(後述)が、コロナ禍の「おうち時間」を充実させたいという多くの方の思いとマッチし、それを契機に沼にハマッた人が続出しています。
ほかの観葉植物同様に鉢植えでも育てられますが、王道はやはり「板付け」。このほかにも、板の代わりに種をくりぬいた椰子の実に固定する「椰子付け」や、板付けせずに植え付けた水苔を球状にして吊して飾る「苔玉」など、お好みの栽培方法で楽しむことができます。
独特の容姿が人々を惹きつけるビカクシダ。その特徴的な葉は、鹿角のような胞子葉(フォリッジ・リーフ)と、その付け根部分のキャベツのような貯水葉(ネスト・リーフ)の2つで形成されます。
胞子葉は、光合成と胞子生産を行い、貯水葉はビカクシダの基幹部を覆って、そこに貯めた腐葉などで、とても短い根や茎を乾燥などのダメージから守る働きを担います。胞子葉。表面の白っぽさは星状毛という細かい毛によるもの。
胞子葉は細長く伸びてイチョウの葉のように叉状に裂け、裏面にビカクシダの特徴でもある胞子嚢(胞子を生成する袋状の生殖器官)をつけます。ここにできた胞子で、子孫を残していきます。
一方、貯水葉は比較的幅が広く、広がりながら水苔に沿って伸びていきます。胞子葉は枯れると落ちますが、貯水葉は寿命が近づくにつれ茶色に変色し、枯れたまま残り、そのまま株元の保護の役割を担います。
いくつかの品種は枯れた貯水葉が開いた感じで上に伸びていくため、その姿がクラウン(王冠)を彷彿とさせ、人気が高いです。
自然界で自生するビカクシダの貯水葉には、雨水や落ちてくる落ち葉、鳥や昆虫のフンを集積・貯蔵する役割があり、根はそこから水分や栄養分を吸収しています。この集積物を水苔に置き換えたのが、観葉植物としてのビカクシダです。
最も人気のディスプレイ方法です。土台となる板には自然のコルク樹皮を使ったり、市販の木製プレートや石板を使うなど、さまざまな素材を用いることができます。
DIYで行う場合は、ビカクシダの株元を水苔で覆い、自前の板に乗せたら、水苔の部分をテグス(釣り糸)や麻ひもで固定するだけです。貯水葉が水苔を覆ってくれて、しっかりと板に張り付いてくれると着生となります。
苔玉仕立ては、ビカクシダの株元を苔玉で覆い、テグスや麻ひもでぐるぐる巻いて固定すればよいだけでなので、DIYで簡単に作れます。ただし、全方位が空気にさらされているため、乾燥には注意してください。
ココヤシの実(ココナッツ)の種子をくりぬいて、そこにビカクシダを植え込む手法の「ヤシ付け」。お部屋にトロピカルな雰囲気を加えたい方におすすめです。
メジャーなスタイルの板付けや苔玉に比べるとマイナーな栽培方法ですが、ココナッツの繊維層(=ハスク)に適度な保水力があるため、見た目以上に管理がしやすく初心者にも育てやすいでしょう。
鉢植えといえど成長の仕方は同じなので、旺盛に成長した貯水葉が鉢全体を包み込んでしまう、なんてことも。
ビカクシダは直射日光の当たらない明るい場所で管理してください。植物育成ライトのみで育てることも可能ですが、1株に対し20W1灯が理想的です。
また、ビカクシダは風通しのよい環境を好みます。そのため、室内で栽培していると風が不足しがちです。風が不足すると成長が鈍化し、病害虫にもかかりやすくなります。かといって、エアコンの風が直接当たる場所は、ビカクシダの新陳代謝に悪影響を及ぼすため絶対に避けてください。
気密性が高い空間で管理する場合、風の解決手段としてサーキュレーターの活用がおすすめです。
サーキュレーターは風が拡散して消える扇風機とは異なり、直進する風を送り出すため、天井に向けて回すことで室内に自然環境に近い空気循環を作ります。ただし、エアコン同様に直あて厳禁です。
夏は20~30℃(人が過ごしやすい温度)、冬は10℃以上(寒さに弱い種類もあるので15℃以上はほしい場合もあります)がベストです。
水苔は、湿地で生息する苔の仲間で、ランや食虫植物など、多湿を好む亜熱帯植物の栽培に用いられる植え込み材です。ビカクシダのデリケートな根を優しく保護してくれ、また根の周囲の環境を酸性に傾けてくれるため、酸性用土を好むビカクシダにはピッタリなんです。
リーズナブルな小パックのものから、お得な大型パックのものまで、多種多様なものが販売されています。主な産地はニュージーランドとチリで、一般的にはニュージーランド産が、太く長く色味もよいため人気です。
水やり
ビカクシダは、3月下旬~10月下旬が成長期です。この時期は水やりの回数をやや多めにします。板付け、椰子付け、苔玉の場合、3~4日に1回、水苔の中心までしっかりと水が浸透するよう、水を張ったバケツに植え付け部分を沈める“漬け込み”を行います。
ブクブクと上がってくる気泡がなくなったら、それは苔が十分に水を吸ったサインなので、ゆっくりと引き上げてください。バケツに入らない場合は、屋外やバスルームで、シャワーなどを用いて水苔と株全体を十分に湿らせてください。
東南アジア原産で、ビカクシダの代表的品種です。1880年代に東南アジアの植物学の向上に貢献したシンガポール植物園の初代園長、ヘンリー N.リドレー卿にちなんでこの名がつきました。
原産地のボルネオでは木の高い場所で潤沢に日光を浴びながら自生しているため、太陽との相性がよい品種です。でも、これは栽培品種なので直射日光は厳禁。自生地に少しでも近づけるために、明るく風通しのよい場所で栽培してください。晩秋〜冬場は午前中に直射日光を2〜3時間あててあげると喜びます。
スパーバムは、オーストラリアのクイーンズランド州とニューサウスウェールズ州北部の低地の熱帯雨林が原産地です。豪州では自宅の庭など屋外での栽培が盛んで、大きくするために貯水葉に茶葉やバナナの皮を入れる、なんて話も聞きます。
けっこう大きくなる品種で、上手に育てれば貯水葉は風格のある王冠のように直立し、胞子葉が2mを超えるなんてことも夢ではありません。見た目はゴージャス! 丈夫で、育て方の基本に則って栽培すれば容易に育つため、初心者におすすめです。当店でも人気の品種です。
見た目、価格、育てやすさ、仕立てやすさ、あらゆる面で初心者向きなのがネザーランド。店頭では、ビカクシダの入門編としてネザーランドをおすすめしています。
ちなみにネザーランドは、ジャワ島やオーストラリア東部原産のビフルカツムという品種をオランダで品種改良し作出されたものです。そのため、オランダの英語読みである‘ネザーランド‘という名前がつきました。元の品種ビフルカツムは、1993年に英国王立園芸協会のガーデンメリット賞を受賞した名品。そんな血を引くため、ビフルカツムより直立する傾向にある胞子葉には、どことなく高貴な印象を受けます。本品のように苔玉仕立てにすると、どこか東洋的な印象が強くなるため、和室などにもおすすめです。
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